教育改革の取り組み
神奈川県秦野市立南中学校
1.はじめに
本校は,秦野盆地の南地区に位置し,近くに公共施設(保健副センター,文化会館,図書館,運動公園等)がたくさんあり,丘陵地には秦野市の観光名所の「震生湖」が四季折々の変化を見せながら,静かに湖面に自然を映し出しています。
生徒数は,417名,クラス数は各学年とも4クラスという中学校規模としては理想的な規模で推移しています。
校舎は平成元年に新しくなり,最近お化粧直しの工事も行われ,全国的にも誇れる趣のある造りを成しており,地域からも親しまれています。
今学校は,「学力の低下」や「いじめ・不登校」などの教育課題が山積しています。落ち着いていて学校内も明るい雰囲気をかもし出していると来校者から言われている本校でも,決して「いじめ」「不登校」が無い訳ではありません。今後教育改革がどのように進められていくのか,保護者や地域の方から強い関心が寄せられている中,常に前向きな姿勢での指導に取り組み,地域に信頼される学校としてより親しまれる学校となるよう努めていきたいと願っています。
そこで,本校の学校教育目標を,平成19年度に変えました。
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この目標の中には,学校教育に対する保護者や地域,学校の「子どもの健やかな成長」への願いが,強く込められています。
・ | 自分を大切にできる人は,他人を大切にする「思いやりの心」が育つ。 |
・ | 今ある自分の力を,少しでも伸ばすための挑戦をする「積極的な心」を持つことにより,「将来を自分の力で切り拓く」ことができる。 |
この願いの具現化のために,「学習活動の工夫・改善」とともに「学校や家庭,地域での生活の充実に向けた体験活動のあり方」をもう一度見直し,日々新たな思いで指導に当たっています。
教職員の合言葉として「変えたくない大切なことは,継続しよう。変えたい・変えるべきものは,教職員一人一人の力で積極的に変えていこう。」ということを確認しながら,毎日の授業,行事,部活動等に取り組んでいます。
2.特徴的な取り組み
年間を通して,学校教育目標の具現化のために工夫・改善した取り組みを幾つか紹介したい。
ただし,次のような考え方を重要視した取り組みに心がけるようにした。
(1)学校としての授業の取り組み
本校は,毎日の授業が全て地域や保護者に公開されています。とは言っても,毎日参観者があるわけではありませんが,例えば,地域やPTAの役員の方が学校に来られたときに,授業の様子を見てもらうようにしています。普段の授業の様子を見てもらうことが,学校の様子を理解してもらうための一番よい方法であると捉えています。最近参観者からは,「生徒も先生も明るく開放的な雰囲気の中で授業が行われていますね。」という声をたくさんいただいています。
また,特設としての授業参観日は,昨年までは年3回であったものを,年4回へと増やしました。これは,保護者からの要望もあり増やすことにしました。学校に対する関心の高さの表れとも言えるものとして捉え,歓迎しています。
指導法の改善に向けては,少人数指導及びTT指導の取り組みについて,次のように行っています。
平成19年度「指導法の改善取り組み」の実態 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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(2)生徒会中心の取り組み
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「ワールドピースキャンペーン」の運動は,年間を通して全校をあげて取り組む大切な活動として,生徒会行事に位置付けられています。本部や各種委員会の活動も,このキャンペーンに関連した取り組みを工夫しながら,1年間の活動を行っています。特に,具体的な体験活動をできるだけ生徒一人ひとりが行えるよう,計画することにしています。生徒は,活動に参加する意思表示の一つとして,平成18年度は「ミサンガリボン」を作成し身につける,平成19年度は「レインボーカード」を作成し,生徒手帳の中に入れて携帯することにしました。また,「メッセージカード」を作成し,生徒会の掲示板に貼り付け,一人ひとりの意思を表明する場としました。
<主な取り組み>
1) | 「あいさつ部」 |
週3回(月曜日・水曜日・金曜日)朝,正門で登校してくる仲間に「おはようございます!」の声かけをしています。年度当初,生徒会本部を中心に誰でも入部可能な活動グループを結成し,あいさつ部の札を付けて,年間を通して活動しています。毎年100名を超える入部者がいます。部活動の朝練習も行われている中,計画的に活動を行っています。
学期に1回(年3回)「あいさつ・遅刻防止強化週間」を設けて,「あいさつの大切さを意識するとともに,遅刻をしないゆとりのある生活リズムを身につけよう」と呼びかけをしています。このときには,南地区の「青少年相談員」及び「PTAの役員」の方にも参加をしていただいています。
また,この取り組みの発展として,校舎内でも出会った先生方や来校者に対して,「こんにちは」などのあいさつが行われるようになりました。
秦野市は,地域全体での取り組みとして,「あいさつ・声かけ運動」に力を入れています。「あいさつは,大人から!」と呼びかけ,明るく安全で安心できる地域づくりに貢献しています。
2) | 「暴力・いじめ防止」 | 標語(6月に実施) |
生徒会が毎年年度当初「暴力・いじめ防止」の活動を推進するために,全生徒を対象にスローガン・標語を募集している。スローガン1点,標語12点選び,校内の数カ所に掲示をしている。
スローガン:
「目指せ!いじめ0,みんな仲良し南中生」
選ばれた標語を幾つか紹介してみます。
どのように私は私の両親とのより良いコミュニケーションを構築することができます
・ | 「暴力反対! 笑顔に賛成!」 |
・ | 「いじめを見ても知らんぷり それでもあなたはお友達?」 |
・ | 「大丈夫? その行動とその言葉」 |
・ | 「いじめの涙は いらない涙」 |
・ | 「人を傷つけて あなたの心はいやされる?」 |
・ | 「あなたは本当に楽しいですか? 心の曇りは天敵です」 |
3) | いじめ防止集会 | (場所:体育館) | 実施日:平成19年10月19日(金) |
保護者・地域・生徒・教員がいじめについて話し合うことにより,いじめをなくすためには何をすることが大切なのかを,生徒一人ひとりが考える場となった。いじめを自らの力でなくすことができるように,全校で「いじめ撲滅宣言」を行った。
企画・運営及び当日の司会進行は,生徒会で行った。まさに,生徒主体の取り組みであり,自分たち一人ひとりの問題として考える取り組みとなった。
<事前学習> 道徳の授業「2−(2)思いやり」を行う。
<事前指導>
<第1部> VTR視聴 :「その時君なら」
あらすじ | ・・・ | ある中学生の男子が,クラスでいじめを受けている。本人は気が弱く,いじめている相手の言いなりになっている。また,クラスの生徒たちも同じようにいじめを見てみぬ振りをしてしまっている。しかし,学級委員の女子が,そんな状況を憂慮して学級会でいじめをやめるように提案するが,いじめている相手はクラスの中にいじめなどないと主張し,いじめがあると思うものは挙手をしろと迫る。クラスの生徒は,勇気がなく誰も手を上げられない。 |
<生徒は,ここまでビデオを見て,ストップする> |
<第2部> 意見交換
・ | 生徒全員に質問を投げかける。
「自分の意見に一番近いと思ったものを選んで,その意見の書いてある台紙に付箋を貼る。」 | ||
・ | 集計結果の発表 | ||
・ | 意見発表(生徒の代表・PTA会長・青少年相談員・民生児童委員・校長・教諭の代表) | ||
・ | 全校生徒を対象に意見交換 | ||
・ | 残りのVTR視聴:「その時君なら」 | ||
・ | 「いじめ撲滅3原則」の発表:「いじめをしない,させない,見過ごさない」 |
4) | 「レインボーカード」 |
「いじめ防止」の取り組みの集大成として,3学期には「レインボーカード」を作成し,生徒一人ひとりが 生徒手帳の中に入れて携帯するようにし, 「いじめ撲滅」に向けての取り組みが,今後とも継続的に行えるようにした。
1月には,年間の取り組みを考え反省する時間として,道徳の時間を使い,各学年で次のような内容の授業を行った。
1月人権教育:「ワールドピースキャンペーン」 の真心の部 |
−手をつなごう真心の和−
(目的) | 2学期までに行ったいじめ防止運動の集大成として,みんなで相手の気持ちを考えて思いやりの心をもって,生活することの再確認と世界の子ども達の置かれている現状を正しく理解し,同じ地球に住む仲間としてわたしたちにできることを考え,少しでも行動しようとする意識を高める。 |
<1月の道徳:主題4−10国際理解の内容を実施する>
1年生: | 「私を忘れないで」(ユニセフビデオ) 世界の子ども達が学校にも行けずに長時間強いられる児童労働の現実を知る。また,その児童労働が私たちの生活に深く関わっていることから,今私たちはどのようなことを心掛けて生活すればよいのかを考える。 どのようにアメリカ人の結婚は別の今日 |
2年生: | 「涙の鎖−南アフリカの子ども達」(ユニセフビデオ) 1日1ドル以下で生活をしなければいけない南アフリカの人たちの現状と戦争で深い傷を負ってしまった子供達の現状を正しく理解し,同じ地球に住む仲間としてわたしたちにできることを考える。また,今の私たちの生活で改めて行かなければいけない部分についても話し合いを行う。 |
3年生は理科学習での食物連鎖の学習の発展として授業を展開する。 | |
資料名:「大地の恵み」 私たち先進国が食物を大量消費し,大量破棄していることが世界の国々では深刻な被害を受けていることを知り,その影響も含め餓死などで幼い命が失われていることを深く受け止め,同じ地球に住む仲間としてわたしたちにできることを考える。また,今の私たちの生活で改めて行かなければいけない部分についても話し合いを行う。 |
3年の授業で使用したプリント | |||||||||||||||||||||||||||
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6) | 生徒会各委員会 |
<生徒会の各委員会の関係する取り組み>
本部: | ワールドピースキャンペーンの運動の趣旨を説明し,ポスター・生徒会新聞などを通じて,全校生徒に協力の呼びかけをする。また,メッセージカードの作成に協力をする。 |
福祉委員会: | アフリカの子ども達の生活の現状の掲示物を作成し,ユニセフ募金の協力を呼びかける。 |
図書委員会: | 世界の国の本の紹介と新聞を作成する。 |
放送委員会: | 運動への協力の呼びかけを,お昼の放送で行う。 |
広報委員会: | 委員会新聞を通して,運動の趣旨と呼びかけをする。 |
美化委員会: | 各クラスのリサイクル紙の収集と紙の無駄遣い防止の呼びかけを行う。 |
保健委員会: | アフリカの子ども達の栄養不足から来る様々な問題を取り上げ,食べ残し防止の呼びかけを行う。 |
中央委員会: | メッセージカード配布と運動参加の呼びかけをする。 |
体育委員会: | メッセ−ジカードの作成を行う。 |
文化委員会: | 個人カード作りを行う。 |
7) | 福祉講演会 | (1年〜3年の12クラスで実施) 実施日:平成19年6月8日(金) |
この講演会は,12クラスのそれぞれのクラスに講師が付き,生徒が中心となって運営されている。平成18年度は,南地区の「民生児童委員」の方にお願いをし,地域のお年寄りとの交流の在り方について学びました。平成19年度は,秦野市内及び近隣の地域の方にお願いをし,平和の尊さについて学びました。
テーマ:「語り継ごう,平和のバトン」>
<事前学習>
道徳の授業「4−(11)世界平和と人類の幸福」 を行う。(ビデオ教材:「夏服の少女たち」)
当日は,体験された「戦争」当時の様子について話をしてもらうことにより,生徒一人ひとりが戦争の悲惨さと平和の尊さを知る。また,この平和な世界を創り維持していくためには,私たちはどのようなことをしていけばよいのかを考える。運営は,全評連・福祉委員・中央委員が協力して行った。
当初は,12人の講師がなかなか見つからず困っ 福祉講演会の様子たが,退職公務員の会「ユリの会」や民生委員の方々の協力で20名の講師を見つけることができた。
当日の講演会は,「生徒が話しをよく聞いてくれた」と講師の方の感想がいただけたように,生徒は熱心に講師の話しに耳を傾けていた。質問もたくさん出され,感想文にも講演の内容に直接触れた内容が多く見られた。
<事後活動>
ワールドピースキャンペーンの一環として「平和の部の"千羽鶴"」を作成し,長崎の「平和記念館」に贈った。また,この折り紙には,自分たちが学習して得られた「平和への思い」を,平和へのメッセージとして書き込んだ。
(3)PTA・生徒会・学校の協働の取り組み
3. 成果と課題
年間を通じて取り組んでいる様々な取り組みを継続的に行っている「ワールドピースキャンペーン」が2年を経過し,生徒と先生・保護者が一体となった活動が随所に見られ,まさに,学校教育目標に込められた願いが達成されつつあるように感じています。平成19年度の生活意識調査の「今,あなたはいじめ(自分自身が苦痛を感じていること)を感じていますか。」という項目では,いじめを感じていると答えた生徒は全体の6.4%という結果でした(昨年55.0%)。
Q:今,あなたはいじめ(自分自身が苦痛を感じていること)を感じていますか? | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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生徒は,全体的に「規範意識」が非常に高く,生徒会の自治活動を通じて自分たちの学校生活を自分たちでよくしようとする意欲が,様々な場面で見られるようになってきました。「廊下を走らない」という取り組みをしたり,掲示物コンクール・学級新聞コンクールを行ったり,生徒同士,生徒と教職員とのコミュニケーションの場も本当に多くもたれるようになってきました。校内の掲示物もほとんど破られることもなく,チャイムが鳴ると生徒は自然に教室に戻り,授業の準備が整った状態で先生を迎えています。全校集会でも,先生が大きな声を張り上げる場面が全く見られなくなり,落ち着いた学校生活が続いています。生徒が主役となる活動が活発に行われることにより,学習面でも取り組みの姿勢に積極性� ��強く感じられるようになってきました。
「人間は,褒められるとやる気を起こすので,できるだけ生徒のよいところを見つけて褒めてやるべきだ。」という話しを聞きます。しかし,これをもう一歩進めて,「褒めてあげられる場面を積極的に創っていくべきだ。」と考えています。
今後は,現在行われているキャンペーン活動が,生徒会の中にしっかり根付いて,毎年工夫・改善されて,より充実した活動となっていくことを願っています。また,年間を通してたくさんのボランティア活動の場が設定されているが,参加できる生徒の数が限られています。さらに,たくさんの生徒がボランティア活動に積極的に参加できるように,学校・家庭・地域の協働が進むことを願っています。
学校を変えていく主役は生徒一人ひとりの力であり,生徒の力を信じる教職員一人ひとりの指導力,それらを支える地域の教育力だと信じつつ,学校教育の充実を図っていきたい。
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